日本で食べた世界飯

日本にいながら世界旅行!現地に行った気分でペロリと美味しくいただきます

エチオピアカレー サファリ / 東京都赤坂

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毎年梅雨がくる前に、必ず猛暑日がおとずれる。この日がまさにそうだった。暦は6月だが雨の気配などまったく感じない見事な晴天で、直射日光を浴び続けている歩道までまぶしい。小さな日傘は功をなさず、長時間屋外にいることに危険を感じる気候だった。

そんな日ではあるが、私は青山通りを赤坂から西に向かってせっせと歩いた。目的地は「とらや赤坂本店」の和菓子資料室「虎屋文庫」である。とらやと言えば日本を代表する老舗和菓子店であるが、創業は室町時代後期(場所は京都)で、五世紀もの長きにわたり和菓子屋を営まれている。後陽成天皇(1586~1611)の御在位中から御所御用も勤めておられ、明治2年の都移りの際、天皇にお供して東京に出てこられた。そんなわけで、とらやには和菓子文化とそれに関連した事象にまつわる膨大な資料が存在する。それらの伝承と建造の一翼を担う目的で設立されたのが「虎屋文庫」だ。

虎屋文庫があるビルは昭和48年に建設され、これまで77回の展示会を開催してこられた。このたび老朽化による建て替えのため、約3年間の休業に入るという。その前に大回顧展をということで、開催中の「お菓子な展示77」が現会場での最後の展示となる。ぜひ拝見したくてやってきたわけである。

展示会場そのものがまるで絵巻物だった。部屋全体をぐるりと囲んだ年表は湾曲に設えてあり、あたたかい和の雰囲気がありつつもシャープでかっこいい。

 ※当時の施工の様子が東京スタデオ様のサイトに掲載されています。
 虎屋文庫のお菓子な展示77

そして驚くべきはお菓子そのもののディスプレイ。模型かと思ったら、なんと職人が作った本物のお菓子が展示されているのだ。江戸時代の和菓子を史料をもとに再現したものや、毎日交換が必要な汁物など、その世界を知らずとも現場の人々の努力がひしひしと伝わってくる。まさに集大成だった。
こんな素晴らしい展示を無料で楽しめるのだから、本当に頭が下がる。たっぷり2時間ばかりおじゃましてしまった。

観覧後にぜひ美味しいお菓子とお茶でも…と思ったのだが、お店のほうは展覧会以上の盛況ぶりで、待っている間に暑さだけでなく空腹にもやられそうな気がして、泣く泣くその場を後にした。気をとりなおして、赤坂近辺でお昼にしよう。この街でランチなんて本当に久しぶりだ。何を食べようかな。

ウロウロ歩いていたら、気になる看板を見つけた。

サファリの看板

カレーの写真に「エチオピアカレー」と記載があった。咄嗟に考える。「エチオピアってどこだっけ…?」。恥ずかしながら存在する大陸も分からない。調べてみるとアフリカ大陸の東側、赤道に近い場所にその国はあった。

エチオピアの地図

まずアフリカにもカレーがあることに素直に驚いた。過去に食べたことがあるカレーは日本とインドのものだけだ。一体どんな味なんだろう?
このまま帰っても「アフリカのカレーとは…」と数日ぐるぐる考え続けるに決まっているので、ランチはここに決めた。

店内はお客でいっぱいだった。唯一空いていたテーブル席に案内される。キッチンには頭にカラフルな帽子をかぶった黒人男性が一人、ホールには笑顔のすてきな日本人女性が1人、それぞれ忙しそうだ。どうやらシェフは現地の人らしい。女性は氷水が入ったピッチャーを持って順番にテーブルを回っていた。大きなピッチャーなのに、すぐ水が無くなっていく。猛暑日ですからね。
注文はすでに決めていた。外の看板に出ていた、2種類のカレーが食べられるミックスカレーランチだ。初めてのアフリカカレー、いきなり2つも体験できるなんてすごくワクワクする。

セットの野菜サラダが先に運ばれてきたので、フォークを取ろうとテーブルの上のかごに手をのばした。3色のアフリカカラーだ。取っ手が木製の食器も実にいい。

食器が入ったケース

「お待たせしましたー」と女性が持ってきてくれたプレートに、幼いころ初めてお子様ランチと遭遇した時と同じトキメキを感じたのは気のせいだろうか?

ミックスカレーランチ

「右の色が濃いほうがエチオピアの代表的なカレー『ドロワット』、左は当店オリジナルのレンズ豆のカレーです。ドロワットのほうが辛めですよー」と、女性がニコニコと説明してくれる。ん?豆カレーについてはエチオピアのカレーというわけではないのだろうか? 質問しようとしたが、「お水くださーい」の声に呼ばれて行ってしまった。暑いですからね…。

さっそくドロワットから食べてみることにした。カレー独特のスパイシーな香りの中に、ハーブのような香草の爽やかさを感じる。なるほど異国っぽい。さてアフリカのカレー、いかなるものか。高まる期待を胸に、スプーンにたっぶりすくって一口でいただいた。

「!!!!! かっら!!!!!」

これがアフリカと私の出会いだった。辛かった。どれくらい辛かったかというと、驚いた胃がジャンプしてシャックリが出始めたくらい辛かった。すぐさま水に手をのばす。ここで気がついたのだが、水を入れたグラスは通常のものではなく、デカいホッピーグラスなのだった。私だけではない、他のテーブルもみんなそうだ。女性は相変わらず忙しそうに水を注いで回っている。皆が水を欲しているのは暑いからじゃない、熱いからだった(舌が)。

なんてことだ、これは予想外だ。初対面の相手に友好を求めて握手しようとしたら、平手打ちを食らってしまった。まずは脳に状況を説明し、外務次官である胃腸に落ち着いてもらわなくてはいけない。彼の協力なくして友好は築けない。私は視覚と嗅覚をフル活動させて、内臓へ情報を送った。いいですか、これからそちらに対談相手を送ります。ちょっとパワフルで今までに経験したことがないタイプだから驚くかもしれないけど、大丈夫。きっと分かり合えます…。

少し冷めたところで再チャレンジすることにした。まずは辛くないレンズ豆のほうから。そうはいっても辛口だが、豆の甘さがあるぶんマイルドだった。大丈夫。食べられるし、ちゃんと美味しい。
慣れてきたところで、ぼちぼちドロワットにも手をつけた。中に入っているのは鶏肉だった。スプーンでつつくと、ホロリとほぐれる。柔らかくて美味しそうだ。えいやっと口に含むと、レンズ豆のカレーのおかげで最初ほどの刺激はなく、ちゃんと味を感じるようになった。辛さの中にミントのような、爽やかで涼しげな風味がある。赤道直下の暑い気候で育ったカレーという気がする。

お店の冷房はしっかり効いているのに、汗がどんどん出てきた。汗だけでなく鼻水も出てくる。ホッピーグラスの水はどんどん無くなるが、すかさず女性が注ぎに来てくれる。

「辛いでしょ?」
「辛いですね」
「エチオピアのカレーはバルバレっていう、いろいろなスパイスを混ぜた調味料を使って作るんですけど、それをシェフの親族が現地で作って送ってくれるんですよ」

ということは、これはダイレクトにエチオピアの味ということだ。うわ、なんだかものすごく感動。はるか遠く離れた場所で食べられているものを今、私は食べているんだ。キッチンのシェフと目があった。無表情のまま手を振ってくれた。友好の握手をした感触が、確かにあった。

バルバレはインドのカレーでいうところのガラムマサラみたいなものなのだろう。実に複雑で、独特で、熱帯の大地を感じる味だった。日本の猛暑日など比べ物にならないだろうが、それでも暑い日に食べてよかった気がする。
室町時代から続く日本の和菓子と同じように、世界各地それぞれに食文化が育っているわけだ。そして東京という街は、現地とさほど変わらないものを味わえる環境がどうやら揃っているらしい。今日のようなインパクトある体験をもっとしてみたいな。

そんなことを考えながら、メトロへの階段を降りた。

お店について

店名
サファリ アフリカンレストランバー
住所
東京都港区赤坂3-13-1 ベルズ赤坂2F
アクセス
東京メトロ赤坂駅から徒歩1分
東京メトロ赤坂見附駅から徒歩7分
東京メトロ溜池山王駅から徒歩5分
営業時間
平日 11:30~14:00、 17:00~23:30(L.O.22:30)  土曜 17:00~23:30(L.O.22:30)
定休日
日曜祝日(10名様以上の予約のみ営業可)
TEL
03-5571-5854

エチオピア連邦民主共和国について

エチオピアの地図

アフリカ大陸の東側、赤道に近い場所にあり、海はありません。国土面積は日本の約2.9倍、首都はアディスアベバです。

もともとはアフリカ最古の独立国でした。1964年から共和国になりましたが、帝政時代の三色旗に「ソロモン王の印章」を付しています。帝政時代の説明では、緑は肥沃な大地と富、黄色は信仰とキリスト教、赤は勇気と血を表すとされています。
この3色は「アフリカ統一の色」としてアフリカ各国の国旗に取り入れられ、それがこの国旗を不変のものとしています。

(株)学研研究社「世界の国旗ビジュアル大辞典」より引用