ベトナム料理 レーロイ / 横浜市関内
ライブや舞台にはあまり足を運ばないのだが、1人だけ贔屓にしているアーティストがいる。小林賢太郎氏である。もともとお笑いにも興味が薄かったせいで、「ラーメンズ」というコンビの存在を知ったのは片桐仁氏との活動がすっかり落ち着いてしまってからだった。よって初めて彼らのライブを見たのはYouTube内においてである。
世界的な小林氏の才能を語るのは今更だが、一つ挙げるとすれば「小説のような舞台構成」がある。面白い長編小説には必ず1つの焦点があって、話の中盤あちらこちらに伏線が引いてあり、それがラストにストンと落ちて美しくまとまる。「あの時の小話はここに繋がっていたのか!」という驚きが、「ああ、面白かった」というため息に自然と変わる。それが彼の作品に対する私の印象だ。
その他にも所作の美しさ、パフォーマンス技術、絵画力など、言い出せばキリがない。要するにファンなのである。
小林氏の舞台は年々人気が上がり、近年はすっかりチケットが取りにくくなってしまった。このたびもやっとの思いで、横浜会場公演を1枚だけ手に入れた。2016年8月22日夜の部。首を長くして待っていたことは言うまでもない。
が、当日信じられないことが起きた。よりによって台風が来たのである。しかも3つ同時に。そのうちの1つはおかしな動きで日本の南側を数日ウロウロしているが、まだ熱帯低気圧に変わらないで粘っている。ありえない。全くありえない。何の因果か。先週ケンカした妹の呪いか。
よりによって何故この日か、といくら嘆いても事は変わらず、時間を追うごとに外の暴風は勢いを増す。ここで信じられない事実を告白すれば、私が住んでいるのは千葉県なのであった。JR横須賀線が街を通っており、横浜までは乗り換え無しで行けるのでアクセスは良い。しかしそれは天候に問題がない時の話だ。インターネットで路線運行情報を見ると、「運行中止」「徐行運転」の赤文字が並ぶ。地獄絵図だ。
どうせ地獄なら打ち死んで終わろう、と服を着替えた。いつもなら絶対に表に出ない天候の中、傘をさして駅に向かった。開演は19時から、乗った電車は14時過ぎ。あとは野となれ山となれ。
しかし日本の鉄道は優秀だった。徐行の連続だったが、そろりそろりと確実に歩を進め、17時には私に横浜の地を踏ませてくれたのである。これ以上ない感謝の想いがあふれたが、ここでも1つ想定外があった。真夏の気温とあいまった強烈な湿気の中、お客様になるべく快適に過ごしていただこうと、優秀なJR鉄道の車内は冷房がガンガンに効いていたのである。そこにびしょぬれ状態で飛び込み、徐行運転のため3時間近く乗車した結果、横浜についた時はくしゃみの連発だった。
幸い雨風はほとんどおさまったので、2時間の余裕ができたし、なにか温かいものを食べることにした。
外観がエメラルドグリーンのその店からは、この上なく良い香りが漂っていた。大好きなアジア独特の出汁の香り。「ここにしなさい」と言わんばかりに、グゥと腹がなる。迷いはなかった。
奥のカウンターに通され、メニューを開く前に壁の写真に釘付けになる。「牛肉麺(牛肉のフォー)」だ。なんて立派な牛肉…!そしてパクチーの量…!みるみる口の中にあふれる唾液。あれを私に食べさせてくれと懇願するように注文した。ついでに絶対あると踏んで生春巻きも追加。料理屋でメニューを開かず注文を終えたのは初めてだった。
牛肉麺(牛肉のフォー)

先に運ばれてきたのは牛肉麺だった。アー!このビジュアルと香り。美味しくないわけがない。壁の写真そのままである。沸き立つ湯気はホカホカだ。
いただきますと高速で唱え、まずは冷えた体にスープをそそぐ。ああ美味いよう。すごく美味しいよう。涙が出てきた。泣くことないのにと自分で思った。ざざっと手早く麺を箸でほぐし、周囲の目も気にせずゾゾゾゾとすする。スープが服に飛んでも気にしない。どうせ賢太郎から見えはしない。脳内でドーパミンが大暴走しているのがわかる。

ローストビーフ状態の牛肉の美味さは言うまでもないが、この麺の実力を押し上げているのがタマネギだ。小口切りされたネギと同様、薬味としてしっかり役割を果たしている。米麺と一緒に味わうときの快感といったら。パクチーの強い風味にも負けず、それどころか仲良くしているのだから本当に不思議。
生春巻き

この美しい切り口…!シェフの美学が感じられる一皿。白く細いのはビーフンだ。野菜も鮮度バツグン。シャキッ、シャキッと1口ごとに元気な歯ごたえで応えてくれる。実に快感。

生春巻きにはしばしばスイートチリソースが添えられているが、こちらのお店はオリジナルの甘酢だった。細切りにした野菜がピクルス状態で、生春巻きと合わせて楽しめる。角のとれた優しい酢の味。やってはいないが、飲んでもむせにくいんじゃないかな。

「辛いのスキですカ?よかったらお好みでドウゾー」と、店員の女性が赤いタレを出してくれた。もちろんこちらもオリジナルだ。途中から甘酢に加えた。こちらも美味しく、2種類の違う味で食べられたことが嬉しかった。
1人で来たから2品しか食べられなかった。今度は誰かと来て、メニューを見ながら色々注文して食べたいな。体はすっかり温まり、元気を取り戻した私は神奈川芸術劇場に向かって歩いた。
目的の舞台は言うまでもなく素晴らしかった。大いに笑ったが、一番感動したのは「小林賢太郎と片桐仁が同じ舞台に立っていたこと」だ。長きにわたりラーメンズの存在を知らず、ライブを生で見たことがない私は、両者が共演するところを直に見るのが初めてだった。ファンの贔屓目かもしれないけれど、他のドラマや映画に出ている時よりも、片桐氏が輝いて見えた。
お店について
- 店名
- レーロイ (Le Loi)
- 住所
- 神奈川県横浜市中区吉田町47 ベトナム料理レーロイビル 1F・2F
- アクセス
- JR関内駅・桜木町駅から徒歩5分
- みなとみらい線馬車道駅から徒歩6分
- 桜木町駅から361m
- 営業時間
- ランチ 11:00~14:00、17:00~22:00
- 定休日
- 火曜日
- TEL
- 045-251-3518
ベトナム社会主義共和国について

日本の沖縄よりさらに南西にあり、南シナ海に面した南北に長い国です。国土面積は日本の約88%、首都はハノイです。

国旗は赤色が社会主義革命の血を、黄色は国内諸民族の団結を表しています。なおベトナム戦争時、破れた南ベトナム解放民族戦線(ベトコン)は、この旗の下半分が青い旗を使っていました。
(株)学研研究社「世界の国旗ビジュアル大辞典」より引用